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2005年09月02日

音楽アノテーションとプレイリスト

ウォークマンの第1号機が発売されたとき、僕は高校生だった。
やたらでかくて重たそうだったが、なんだかわくわくするような機械だった。
ヘッドホンを付けているときに周囲の音が聞こえなくなって不便な場合を想定して、本体に外の音をひろうためのマイクが付いていて、ボタンを押すと音楽からマイク入力に切り替わるような仕組みまで付いていた。
そんなの、ヘッドホン外しゃいいじゃん、と思っていた。
そのときはちょっと高くて買えなかったのだけど、その後大学に入ってから、爆発的にヒットしたウォークマンIIの赤を買った。
それ以降、ずいぶんいろいろな機種を買った。
でかかった最初のオートリバース機や防水型で太陽電池のついたものとか、ワイヤレスヘッドホンのもの(こいつがひどくて、同じ機種を持っている人が近くにいると、距離によってはそっちの音が聞こえてきた。満員電車の中で聞きたくもない演歌を聞かされたこともあった)、MD版の第1号機も持っていた。
録音機能も付いているすぐれものであった。

しかし、会社に入ってしばらくすると、電車の中や歩きながら音楽を聴くこともなくなってしまった。
フレックスタイムになって満員電車に乗らなくなったせいもあり、座って会社に行けるようになると、電車の中でノートPCを広げて作業をするようになった。
電車の中ではひたすらノートPCに向い、降りると目的地に向って走る。
そんな生活を続けていると、移動中に音楽を聴いている余裕もなくなってしまった。

なのに今は、iPodにはまっている。
職場が会社から大学に変わったら、再び音楽と密着した生活になった。
そういえば、通勤の途中でノートPCを開くことが少なくなった。
出張中の新幹線の中ではさすがにノートPCに向っているが、同時にiPodを聴いている。
これは生活に余裕が出てきたということだろうか。
いや、最近、プログラミングのスピードがかなり落ちてきたし、文章もろくに書いていない(だから、このブログでリハビリをしているのだけど)。
仕事のパフォーマンスがしっかり落ちているじゃないか。
ただ言い訳をさせてもらうと、学生の指導のことを考えている時間が非常に長くて、自分のことをやっている時間が減っているのである。

なぜiPodを使うようになったかというと、僕のいる研究室の学生が音楽へのアノテーションとプレイリストの自動生成などの研究を行っているからである。
僕は最初、この研究に十分な深みがあるのかどうか疑問だった。
学部生がやる研究なら、時間があまりないから、どうしても浅くなってしまうのだけど、大学院生がやる研究の底が浅いのはとてもまずい。
自分が一所懸命取り組んだものが、たいして重要なものではなかったことが後でわかったとしたら本人の落胆は小さなものではないだろう。
では、なぜ疑問だったかというと、音楽の構造や意味に関する工学的アプローチが場当たり的なものになってしまうのではないかということと、音楽の信号処理による自動解析はもうできることはほとんどやられてしまっていて、これからやれることは他の人がやらなかったニッチしかないのではないかと思ったことが主な原因である。

しかし、僕らはデジタルコンテンツ一般を対象にした研究を行っているのであるから、当然、音楽コンテンツのうまい扱い方も考えるべきだろう。
そしてそれは音楽に新しい役割を持たせることになる。

音楽へのアノテーションとは、楽曲の全体や部分に構造的な情報や意味的な情報を関連付けるものである。
アノテーションには楽曲を聴いた人の印象やコメントなども含まれる。
さらに、どんな状況で聴いたか・聴きたいかなどのアンケート的な質問の答えもアノテーションとして曲に関連付けることができる。

このような仕組みの応用に、楽曲検索がある。
曲名や歌詞、アーティスト名、さらにジャンルやヒットチャートランキング等による検索や、ユーザーの好みの類似性に着目した協調フィルタリングなどが実現できる。

さらに興味深いのは、音楽アノテーションは、鑑賞者のそのときの状況に合った楽曲集つまりプレイリストの生成に利用できることである。

プレイリストはかなり以前からあるけれど、iPodのおかげでがぜん注目度が上がってきたと思う。
AppleのWebサイトでもセレブリティ・プレイリストとかいう企画で、有名人の選んだ曲の一覧などが掲載されている。
好きなミュージシャンの好きな曲というのは興味があって当然だと思う。

もちろん、他人が作ったプレイリストより、今の自分に最も適したプレイリストを作成することの方がよほど重要だろう。
携帯用のコンテンツサービスに「着うたフル」みたいなものがあるが、オンデマンド音楽配信をモバイルでやることにそんなに意味があるとは思えない(音楽配信の敷居を下げることには貢献していると思うが、iPodユーザーならiTunesを使えるから、これは携帯しか使えない人向きのサービスですね)。
やはり、聴きたい曲を聴きたいときにダウンロードするのは、あまり効率がよくないと思う。
それよりも定期的に曲を一括ダウンロードして、全部持って歩き、何を聴くかはすでに手元にある曲のプレイリストをオンデマンドに生成したり再利用したりするのが一般的になると思う。
重要なのは、今聴きたい曲を一つ一つ選んでいくというより、今の気分に合ったプレイリストを生成あるいは選択する、ということである。


日本が世界に誇る漫画であるドラえもんの道具の中に、「ムード盛り上げ楽団」というのがある。
バイオリン・ドラム・トランペットを持った3体の小型ロボットたちが、主人の後をついてきて、BGMを奏でて気分を盛り上げてくれるというものである。
元気を出したいときはアップテンポの曲で、落ち着きたいときはスローな曲、という感じである。
今やBGMのないドラマは想像できないくらいに、BGMは人の心情や行動とシンクロして、その印象を強めることができる。

音楽が人をリラックスさせ、時に記憶の想起を促し、気力を向上させ、脳を活性化させるのは間違いがないだろう。
だから音楽を効果的に使って、人をよりアクティブに充実した時間が過ごせるようにするというのはとても意義のあることだと思う。

ところで、多くの人は自分自身のテーマソングを持っているのではないだろうか。
落ち込んでいても、その曲を聴いているうちに何となく元気になれるような音楽である。
僕は大学時代にスキー部でジャンプをやっていたせいで、Van HalenのJumpという曲がテーマソングだった(そのまんまですね)。
この歌を聴くと野沢温泉スキー場の向林ゲレンデのジャンプ台の情景が頭に浮かび、飛ぶ前の恐怖感と高揚感や、夏合宿のサマージャンプでこけて左ひざのじん帯を怪我したことなどが思い出されてくる(夏にスキージャンプはやっちゃいけません)。
いい思い出ばかりではないが、でも、気分は盛り上がってくる。

「ムード盛り上げ楽団」みたいな機械は、現在の技術で結構できるのではないかと思う。
確かに人間の気分や意図などの心的状態を知るのはむずかしいけれど、行動履歴や習慣や大雑把な生理学的情報から、多少失敗するのは覚悟の上で、適切なBGMを選択するのは可能ではないかと思う。

それに、「ムード盛り上げ楽団」は生演奏なので関係ないけれど、普通は1曲だけでは時間が合わないから、似たような曲を複数曲、いい感じで続けて流すのがよいだろう。
つまり、プレイリストである。

iPodのように何万曲も保存できるものなら、ムードを盛り上げるためにわざわざ新しい曲をダウンロードする必要なんてないから、プレイリストだけオンデマンドに生成できれば十分である。

人間のそのときの状況に関する情報と音楽へのアノテーションを用いることによって、その人の気分を盛り上げるためのプレイリストが生成できるだろう。
最初のうちは、結構外してしまうかも知れないけれど、統計的手法による学習機能によって、徐々にその人に適合したプレイリストが作れるようになるだろう。

iPodが携帯型「ムード盛り上げ楽団」になる日は近い。
音楽が今やっている仕事を不用意に妨げることもなくなり、むしろ、気が乗らないときにもそれなりにやる気にさせてくれるかも知れない。
そうなったら、もう二度と、僕は音楽を持ち歩くことをやめたりしないだろう。

投稿者 nagao : 2005年09月02日 00:27

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コメント

こんにちは。
iPod Shuffleに、時間帯によってプレイリストが変化する機能があったらいいなあ、と思ったことがありました。
単純に、朝用のと夜用のなんですが。
iPod shuffleを2個以上持つのもありかもしれませんが。。

投稿者 ringo : 2005年09月02日 08:50

コメントありがとう。
誰も読んでいないのかと思って、気になってました。

> iPod Shuffleに、時間帯によってプレイリストが変化する
> 機能があったらいいなあ、と思ったことがありました。
> 単純に、朝用のと夜用のなんですが。

時間だけでなく、血圧や心拍数でプレイリストを変化させる
仕組みが考えられますよ。
一緒に作ってみる?

投稿者 nagao : 2005年09月03日 23:58

僕は、プログラムを自由に書きこめるiPodサイズの端末で、
無線のI/Oをもつものがあったら、
やってみたいことがいくつもあります。
まずはそんな端末のハードウェアと、
開発ツールと、最初のアプリを一緒に作ってみたいです。
すでにそういうものはあるのでしょうか。

投稿者 ringo : 2005年09月05日 03:20

> すでにそういうものはあるのでしょうか。

ありますよ。ケータイと呼ばれているものです。

しかし、ケータイじゃ面白くないので、新しいものを
作りたいですね。
たとえば、ウェアラブルマシンで本当にウェアラブル
である必然性のあるものはほとんどないような気が
するので、自分で作ってみたいと思っています。
僕が考えているのは、首のうしろに固定するタイプの
もので、もちろん、通信機能付きで、ヘッドホンの
付けられるものです。
ディスプレイはかさばるし、制限が強すぎるので、
ない方がいいと思う。

投稿者 nagao : 2005年09月07日 01:35

たしかに。。
携帯でやりたいと思わないのですが、
それはなぜかと聞かれると、うまく言えないことがわかりました。
なぜかなあ。
僕はどちらかというと、自由にハードウェアをいじれれるちいさな端末というのに興味がある気がします。
とりとめがなくてすみません。


投稿者 ringo : 2005年09月07日 02:23