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2007年02月27日

議論というコンテンツ

大変ご無沙汰しております。
昨年の11月にブログ用のサーバーが故障して、データの復旧等に時間がかかってしまい、今日までブログの更新ができませんでした。
また、よろしくお願いします。


これまで、僕のいる研究室では、ずっとミーティング(メンバー全員の参加するゼミ)の記録を取り続けてきた。
それは、ミーティングにおけるコミュニケーション、特に議論を、再利用可能なコンテンツとするためである。
その考えがようやく実現されるようになった。

一部のコンテンツを公開しているので、興味のある人はここから入って見てください。


この実現のためには、ずいぶんと紆余曲折があった。
まず、ミーティングを詳細に記録するということの意義を学生たちが理解するのに時間がかかった。
確かに、いつもレベルの高い充実した内容を話し合っているのなら後で見直してみても役に立ちそうだけど、たいていの場合、学生たちの発表や議論はぐだぐだである。
だから、そんなものを記録しても意味がないし恥ずかしいだけだ、と思ってしまうのも無理はない。
しかし、ぐだぐだの議論の中にも光るような発言はあるし、自分の言ったことをすぐに忘れてしまうような人には記録は重要である。
後で、やはりこの議論は記録に取っておくべきだったと残念に思うくらいなら、初めから全部記録した方がよい。

さらに困難だったのは、ミーティングに関わるさまざまなメタデータを効率的に作成することである。
これは僕たちの研究において本質的な部分である。
ミーティングをただビデオに撮って残すだけでは扱いやすいコンテンツにはならないからである。

たとえば、議論を構成する単位である参加者の発言をどうセグメント(分節)化するか、またその発言がそれ以前の発言にどう関係するか、などの情報を比較的簡単なやり方で、機械で扱える形式にする仕組みが必要だった。
さらに、発言の内容をキーワード等で検索可能にする必要があった。

また、一般にミーティングは長くなりがちなので、見るべき部分を効率よく探し出す手段もなければならない。

そして、これはとても重要であるが、これらの機能を実現するための情報を、できるだけミーティングの最中に作り出さなければならないということである。
なぜなら、議論のコンテンツの作成には参加者全員の協力が必要であるが、それはミーティングの最中ならばほぼ確実に得られることがわかっているが、その終了後に得られるかどうかはまったく保証されないからである。
機械が自動的に生成できるものならばいつ実行しても構わないが、人間の労力を少なからず必要とする場合は、それが十分に引き出せる機会はきわめて限定される。

そこで、僕はミーティングルームの設計から考え始めた。
やはり集団で知的作業を行うときに最も効率がよいのは時間と空間を共有することだろう。
それに僕はテレカンファレンスのような、遠隔にも関わらず時間を同期しなければいけない状況が嫌いであり苦手である。
どんな手段を使っても相手の文脈がうまく伝わらないし、無理して伝えたところで空間をありのままに共有するのには遠く及ばないからである。

ミーティングルームでは考えられる限りの文脈情報が効率よく記録できるようにしようと思った。
また、できるだけその空間が窮屈で不快にならないように開放的な雰囲気にしようと思った。

その結果は、僕が描いた以下の図面に現れている。

meeting_space.jpg

通常は会議室の壁側に設置されるプロジェクタスクリーンが、ここでは部屋の入り口付近にある。
これは、スクリーンを降ろすとミーティングスペースが仕切られ、ミーティングを始められる雰囲気になり、スクリーンを上げるとオープンな雰囲気になり、広々とした感じになるようにしたためである。
これでは機密的な打ち合わせはできないけれど、大学の研究室ではあまりそういう会議をやらないので、これでよいのである。

また、ミーティングでは参加者全員がお互いの顔が見えた方がよい。
その場合、最もよい配置は円周上に並ぶことである(アーサー王と円卓の騎士みたいですね)。
また、空間を広く使うにはできるだけ円の直径が長くなるようにしたい。
それでミーティングスペースをほぼ正方形に区画できるようにして、一つのコーナーにプロジェクタ用のメインスクリーンがあり、サブスクリーンの大型液晶ディスプレイがその両側にあるような配置を考えた。
2台のサブスクリーンには同じ情報、たとえば、記録しているメタデータ(後述する札やボタンの情報)を可視化したものを表示している。

また、参加者は自分専用のサイドテーブルを使い、PCや紙のノートや次に述べる無線デバイスを置けるようにした。

議論を構造化するために、僕たちはいくつかのデバイスを開発した。
一つは議論札と呼ばれる札型のデバイスで、もう一つはd-Buttonと呼ばれるボタンデバイスである。
議論札は2種類あって、赤と黄色に色分けされている。
赤い方は、新しいトピックで議論を始めるときに、上に掲げてから発言を始める。
黄色い方は、同じトピックのままで議論を続けるときに、やはり上に掲げてから発言する。
d-Buttonは赤緑青3つのプッシュスイッチを持ち、発言者が発言を終了するときに緑を、その他の参加者が、現在あるいは直前の発言を支持するときに青を、その発言が理解できない、あるいはそれに同意できないときに赤を押す。
緑は、発言者以外が押すときはマーキングの機能を持ち、あとでコンテンツを見直すときに栞の役割を果たす。
これらのデバイスは赤外線の送信機能を持ち、各参加者の座席の上の方に設置された受信器にデータを送るようになっている。
赤外線受信器はPCにつながっていて、データを受信すると同時にサーバーに転送する。
また各受信器はその位置が登録されており、データを受信するとその位置に合わせて参加者をアップで撮れるようにカメラを向けるようになっている。
さらに、それと同時に議事録作成用ツールに発言者の名前が表示され、発言内容をタイプ入力するフォームが生成される。
これらのデバイスはとても単純なものであるが、すべて僕たちの手作りである。

以上の仕組みを集約させた結果、僕たちのミーティングスペースは以下の図のような雰囲気になっている。

dm_room.jpg

さて、ボタンに関してはまだ許せるとしても、札を上げてから話し始めるやり方には疑問を持つ人も多いだろう。
全方位を撮影するカメラがあって、参加者が挙手したところを認識すればよいとか、カメラをコントロールする人がいて簡単な操作で発言者にカメラを向ければよいとか、そもそもボタンがあるなら全部ボタンでやればよいとか、いろいろな意見があるだろう。

画像認識はやってもいいが精度が100%ではない限り、それだけに頼るわけにはいかない。
また、カメラコントロールを手動でやるのはナンセンスである。
さらに、ボタンを使って発言の開始を知らせるためにはスイッチの数を増やさなければならない。
数を増やさずに、すでにあるスイッチを併用すると曖昧さが生じてしまう(たとえば、発言を開始したいのか、直前の発言を支持しているのか、を区別できない、など)。
PCのキーボードやマウスを使えばよい、という意見はあると思うが、後述する理由で発表者と書記を除く参加者は会議中にPCを使ってはいけないことになっている。
それに、手順を複雑にしたり選択肢を増やしたりすると参加者の負担が大きくなってしまう。

発表者と書記以外がミーティング中にPCを使ってはいけない理由は、集中力の足りない連中がすぐに内職に走るからである。
僕もPCが目の前にあるとすぐ自分宛のメールを確認してしまうので人のことは言えないが。

ところで、札を使うことの明らかなメリットもある。
それは、意見を言おうかどうしようか迷っている状態を周囲の人に知らせることができることである。
発言をしようと思った人は、まず赤か黄色のどちらかの札を持って(強く握らないと赤外線データは発信されない)、前の発言が終わるか、発表が途切れるのを待っている。
それが他の人にも伝わるから、発表者は質問が来ることを予測できるし、他の参加者はすぐにトピックを変えてもよいかどうかを判断することができる。
また、持っている札の色の違いから、議論の次の展開について、発言内容を聞く前におおよその見当がつく場合もある。

加えてd-Buttonは、ミーティング中に参加者の意見を集約させるためにも使われる。
たとえば、多数決をとりたいときに、全員にボタンを押す機会を与えて、即座に集計し議論に役立てることができる。

僕たちのシステムのその他の機能として、レーザーポインタがメインスクリーンのどの位置を指しているかを自動的に認識して記録することができる。
レーザーポインタは参加者全員が自分専用のものを使っている(ただし、ポインタにIDがあるわけではない)。
それによって発言者が指示対象を明確にして、代名詞(主に「これ」)を使うことができる。
現在では、ポインタの指している領域を会議中に議事録に反映させることはできないが、スライドイメージ内の領域と書記の書いたテキスト中の代名詞をリンクさせる方法を検討している。

あと、当然ながら、発表者のスライド情報や発表中にスライドを切り替えた時間や、デモ等を行うときの時間や簡単な内容記述も記録して保存している。

とにかく、僕たちは、ミーティング中に記録できるものはほとんどすべて記録し、ミーティング後に自動的に組み合わせて、閲覧可能なコンテンツとしている。
そのコンテンツの一部を、これを読んでいる人にも見ていただきたいと思っている。

公開されているコンテンツがすべて質の高い議論であるなどと言うつもりはないし、実際にほとんどの議論が(僕の発言も含めて)ぐだぐだである。
しかし、それでもこのような試みは必要だと思うし、会議における議論をもっとうまく活用したいと思っているならば、記録して、その内容を見やすくする工夫をするべきだろう。


最後に、現在Webで公開している議論コンテンツ閲覧システム(Discussion Media Browserと呼んでいる)について、いくつか説明をしようと思う。
このシステムは、3つのビデオプレイヤ、層状シークバーと呼ばれる複数レイヤを持つビデオシークバー、タブで切り替え可能なメインウィンドウ、コンテンツ内の検索用のサイドバーから構成される。
ビデオプレイヤは、上から、参加者映像、発表者映像、メインスクリーン映像(サブスクリーンはその場にいる人が見るだけのものなので記録していない)を表示している。
層状シークバーは、スライドの切り替わり、各議論のセグメント(開始時間と終了時間)、どのボタンがどのタイミングで押されているかを示す情報、検索と連動して表示される検索結果の出現時間に関する情報、議事録内で頻出する単語の出現時間に関する情報(表示する単語数は検索サイドバーで変更可能)をそれぞれ異なる層のシークバーで表すものである。
ビデオの現在時間を表示するスライダーをドラッグするとビデオのサムネイルが変化してシーンを選択する手がかりとなる。
また、シークバーの任意の部分をクリックするとその部分のビデオが再生される。
クリックせずにマウスポインタをロールオーバーするとそれぞれのシークバーに関連した情報がポップアップする。
特に複雑なのは議論に関するシークバーで、任意の議論セグメントにマウスを当てると、その議論セグメントに含まれるすべての発言の発言者名と頻出キーワードなどが表示される(導入発言は特に重要なので、文字制限ぎりぎりまで表示する)。
このポップアップウィンドウ内で発言者名をクリックするとその発言のビデオが再生される。

メインウィンドウは、テキストとスライドイメージを含む議事録表示と、議論のセグメントや発言間の関係をグラフ化した表示をタブで切り替えることができる。
議事録ビューでは、スライドや発言がビデオとリンクしており、付随して表示されるPlayボタンをクリックすると該当する部分のビデオが再生される。
キーワード検索するとマッチする部分がハイライトされる。
また、グラフビューでは、Flashを使って発言間の関係や議論セグメント間の関係が表示される。
特に、その発言がどの導入発言に関連しているか、その発言と直接関連する発言はどれか、などが一目でわかるようになっている。
当然、発言ノードはビデオとリンクされており、クリックすると該当する部分が再生される。

なお、メインウィンドウの内容は、ビデオの再生時間とシンクロして自動的にスクロール・ハイライトされる。

検索サイドバーには、その名の通り、検索要求を入力するフォームや、検索結果からビデオを見るためのボタン等が用意されている。
また、参加者一覧がプルダウンメニューで示されており、特定の人の発言のみを簡単な操作で見ることができる。
キーワード検索は、書記の記録した発言内容以外に、スライド内のテキストも同様に対象とすることができる。

このように、いろいろと豊富な機能が搭載されている。

僕たちが次に作ろうとしているのは、このコンテンツをミーティング以降の知識活動で効果的に活用する仕組みである。
議論コンテンツには特定の個人のアイディア以上のものが含まれていることが多いので、それをうまく活用すれば、個人が一人で黙々と考えた以上の成果が得られるだろう。
だから、議論コンテンツを引用し、派生させて、より発展させたアイディアを含むコンテンツが創造できればよいと思う。
そのための仕組みについては、また別の機会に書いてみたいと思う。

投稿者 nagao : 02:26 | トラックバック