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2007年06月11日

オムニムーバーと実世界のインデックス

最近ようやく、僕たちが以前から作ってきた個人用知的移動体ATの9番目の機体の設計がほぼ完了した。
今回は構造が以前のものより複雑なため、詳細な設計はプロの人にやっていただいたのだが、基本的な仕様やデザインは僕が考えたものである。

今年の9月までにはとりあえず動くようにして、学外の人にもお披露目しようと思っていますので、興味のある方は是非見に来てください(ただし、場所は名古屋大学です)。

AT9号機の最大の特徴は、全方位に動けることである(全方向と言わないのは、上下方向にはまだ動けないからである)。
僕はそのような移動体を「オムニムーバー(OmniMover)」と呼んでいる。
オムニムーバーは、セグウェイのようにその場回転をして任意の方位を向いてから走行するようなものではない。
静止状態からならばどの方位にもすぐに動けるのである。

すでに動いている状態で任意の方位に動くためには慣性を何とかしなければならない。
また、乗っている人間への加速度の影響を考慮しなければならないから、動きたいと思う向きに即座に動けるわけではない。

ところで、任意の方位に動けるということは、これまでの乗り物の動き方とは異なる動き方ができるということである。
それは、たとえば障害物などのよけ方に現われてくる。
これまでの乗り物は、止まっている状態から真横に動くことができなかった。
それは、車輪という、人類の偉大なる発明が持っている最大の弱点だった。

しかし、世の中にはいろいろと考える人がいて、オムニホイールという発明がある。
要するに、車輪の回転方向と垂直の方向に回転する複数の小型の車輪を合成した複合車輪である。
この車輪を付けた物体は横滑りによって横方向に移動することができる。
実は、これはロボットコンテストなどの競技用ロボットでは、以前から導入されている技術である。

いまさらではあるが、僕はオムニホイールを屋内外両用の個人用移動体に応用することにした。
8号機までのATが電動車椅子の車輪を使っていたのと比べると、かなりの路線変更である。

もちろん、いくつかの問題がある。
4個のモーター付きオムニホイールを使って全方位に動かせるようにするため、モーターのパワーを結構無駄に使わなければならないことである。
そのためバッテリーの消費を考えるとあまり速いスピードを出すことができない。
また、オムニホイールは弾力性に乏しいので、振動や衝撃の吸収力が弱い。
つまり、この構成が乗り物として妥当かどうかは、さらなる工夫次第なのである。

さらにいろいろ考えているのは、無論、センサーと通信機能である。
自律的に動作するお掃除ロボットが、家具に傷をつけないために、目に見えない壁(バーチャルウォールと呼ばれる)でロボットの行動範囲を制限する仕組みがあるが、これと同様のものを乗り物に対しても適用してみようと思う。
つまり、走行可能エリアかどうかは、周囲の環境から自発的に発信される情報に基づいて決定するということである。

もちろん、これと通常のセンサーも併用する。
今のところ、最近よく自動車の衝突防止のために使われるようになってきたミリ波レーダーを(全方位を見渡せるように工夫して)使おうと思っている。
さらに、AT間、AT-ユーザー間の通信も利用して(照明を利用した可視光通信も併用する)、どう動くべきかを計算する。
つまり、ぶつからずに動くということを徹底的に考え抜いた乗り物を作ろうと思っている。


人が乗り物を降りて歩きまわれば何かにぶつかることもあるだろうが、乗っている限りはぶつからない。
何をしてもぶつからないのならば、乗っている人間はかなりリラックスできるだろう。
急に停止することも十分にあり得るから、ぼうっとしながら乗っているとびっくりすることもあるだろうけれど、操作ミスによる危険が発生しないのならば、熟練者でなくてもかなり気持ちが楽になって、できることもいろいろと広がっていくだろう。
そこで、物理的な状況と、その場で獲得した情報を結び付けるような作業もやってみようという気になるのではないだろうか。

たとえば、道端の花を見て、その写真を撮影すると同時に検索して見つけたその花のデータを一緒にして記録しておく、という作業である。
花の名前や色からその花を見た場所を検索するようなことも簡単にできるだろう。
夕日がきれいに見えた場所とかいうものでもよい。
後で思い出して地図に印を付けるというのでもよいかも知れないけれど、たいていの場合忘れてしまうので、その場で軽くやってしまうのがいい。
とにかく、人間が物理的な世界に自由にインデックスを付けられるような仕組みがあるとよいと思う。

Google Mapsのように地図の上でいろいろ操作することによって、実世界に(間接的に)インデックスをつけることも可能だろうが、その時間のその場所に、直接的にインデックスを付けられればその方が直感的でわかりやすい。

インデックスを付ける作業が日常のさりげない行為の中に埋め込まれている状態が理想であるが、それはなかなかむずかしい。
状況を解釈して意味(的な情報)を与えるということは、無意識的にはできないからだ。

日常の中に含まれる変化を敏感に感じ取ったり、些細なことでも新しい発見に喜んだりできるような感受性の豊かな人なら、ちょっとした努力で実世界へのインデックス付けを習慣化できるだろう。
ちなみに、そういう人は毎日ブログを書ける人かも知れない(僕にはとても無理である)。

ところで最近、よく月を眺めているのだけど、「ああ今日は三日月なんだ、そういえば、この前満月を見た時はこっちの方角じゃなかったなあ、どっちだったっけ」などと思ったりする。
こういうときは、今見ている空に目印を付けたいと思う。
実世界にインデックスを付けるというのは、たとえばそういうことである。

さらに、そのインデックスを共有して、関連するコンテンツ(たとえば、体験コンテンツ)と結び付けておくのがよいだろう。
たとえば、いわゆるマインドマップに時空間の概念を導入して、ATで移動しながら半自動的に実世界マインドマップを作っていくというのはどうだろう。
移動に伴って自動的にノードが生成され、ある場所の滞留時間が長くなるとノードが大きくなって、さまざまな情報とリンクできるようになるのである。
映像・音声はもちろんのこと、Webで調べた情報やその場で入力したタグやコメントもノードに付与できる。
また、ノードには位置情報が関連付けられていて、マインドマップの表示をトポロジカルに変化させられるようにする。
そして、この実世界マインドマップを簡単なやり方で編集して、Webにアップロードして共有するのである。

このような活動がグローバルに展開されれば、たとえ初めて訪れた場所であっても、実世界に付けられたさまざまな目印を発見して誰かの体験(の一部)を共有できるだろう。
未来の乗り物ATは、そのようなインデックスを実世界上で検索し、体験を再利用するためのマシンにもなるだろう。


世界にインデックスを付けるという行為は、もちろん、セカンドライフのような仮想世界上でもできる(しかも、おそらくもっと簡単にできる)のだけれど、もともとの世界の持っている複雑さが違い過ぎるので、仮想世界での体験共有は段々飽きられていくのではないかと思う(仮想世界の複雑さが今よりずっと拡大していくことは想像できるが、やはり実世界には遠く及ばないと思う)。

僕たちの生きている世界はまだまだ新しい発見に満ち溢れていると思う。
ネットでちょっと情報を調べるだけでこの世界のことをわかったような気になってしまうのはとてもまずいと思う。
それよりも、たくさんの人が、自らの手で、この世界を理解するための手がかりを作成して共有していくのは、ネットと実世界にまたがるとても創造的な活動だと思う。

僕はそういう世界の理解と発展につながるような創造的な活動を後押ししてくれるマシンを作りたいと思っている。

投稿者 nagao : 09:11 | コメント (2028) | トラックバック

2007年06月03日

人工知能の未来を考えるブレインストーミング

僕は、今月の20日から宮崎シーガイアで行われる人工知能学会第21回全国大会のプログラム委員長をしています。
全国大会というのは、学会の会員向けサービスの一つで、会員なら誰でも(一応、内容が適切かどうかのチェックがありますが)研究発表の機会が与えられ、優れた研究は学会の名によって表彰されるという、学会にとって最も重要なイベントなのです。

今回の大会では、有名なプログラミング言語Rubyの開発者まつもとゆきひろさんの招待講演もあります。

といっても、例年特に盛り上がりもなく、ただ淡々と「集まって、発表して、発表が終わったら適当に観光して帰る」という普通の会議になってしまうことも多いのです。

それで、今年はちょっと目新しいことをやってみようと思いました(ちなみに、昨年は「研究者の人生ゲーム」というイベントが行われて、そこそこ盛り上がったそうです)。

全国大会は300人以上が集まる会議ですが、そこで大規模なブレインストーミング(といっても実際はゲームみたいなもの)をやってみようと思います。
題して「2夜連続ナイトセッション・超ダートマス会議」。
「ダートマス会議」というのは、人工知能の黎明期の1956年に行われた有名な会議の名前です。

その有名な会議は1カ月間にもおよぶブレインストーミングを行い(ただし、複数の小規模ワークショップを順次開催)、「人工知能」という名称を定め、研究の基礎となる多くのアイディアを提示したのでした。

そのダートマス会議を超えるような画期的なブレインストーミングをやろう、という意気込みで「超ダートマス会議」という名前をつけました(「ダートマス」というのは会場となった大学の名前なので、「シーガイア会議」でいいんじゃない、と言ったら却下されました)。

さて、超ダートマス会議の内容は、無敵会議と呼ばれる形式によるブレインストーミングです。
無敵会議とは、あるテーマに基づいてお題を出し、その答えの優劣を競って最終的に優秀者(優秀者には豪華賞品が贈呈されます)の発表を聞いて議論する、というものです。

お題とは、たとえば、以下のようなものです。

次のカッコ内を埋めよ。

2100年、人類の英知を極めた「(     )システム」は、
人類史上初の(              )を達成し、
人類の悲願であった(           )という難問を解決した。
ちなみに、それは、あなたが2017年に発表した
(                    )に関する研究成果が
きっかけであることは知る人ぞ知る事実である。

みなさんの答えはいかがですか。

ちなみに僕のはこんな感じです。

2100年、人類の英知を極めた「(無限記憶)システム」は、
人類史上初の(人間の記憶容量の無限大化)を達成し、
人類の悲願であった(物忘れをなくす)という難問を解決した。
ちなみに、それは、あなたが2017年に発表した
(ものぐさな人のための自動ライフロギングシステム)に関する研究成果が
きっかけであることは知る人ぞ知る事実である。

このセッションに込めた僕の意図は、「今後10年かけて少なくとも100年残るものを作る」ための(特に人工知能に関連する)研究を盛り上げることです。
やはり、今後の研究を大きく盛り上げるためには、若手研究者たちの意欲を高いレベルで維持していくことが必要だと思っています。
てっとり早く成果を出すために、すぐに論文になりそうな安易な(海外ではすでに盛り上がっている)研究テーマを選んで、ほんの少しの新規性をアピールして満足しているような研究では、100年生き残るような成果は出せないでしょう。
一人一人がパイオニア精神を持ってアイディアを練り、独りよがりにならないように共通の目的意識を持った人たちとじっくり議論して(ついでに言えば、僕たちの仕組みのように議論内容をうまく活用して)、慎重に研究テーマを決めて、真面目に腰を据えて研究を行っていけば、きっと100年残る研究成果を出せると思います(もちろん、僕もそのつもりで研究を行っています)。

これを読んで興味を持たれた方は、是非、全国大会および超ダートマス会議にご参加ください。

投稿者 nagao : 23:42 | コメント (1718) | トラックバック