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2007年07月21日

バランスボードは円盤型がいいと思う

再び任天堂Wiiの話題です。

先日、カリフォルニアのサンタモニカで行われたE3 (Electronic Entertainment Expo) Media and Business Summitというイベントで、任天堂が紹介したWii Fitという健康志向ゲームは、Wiiバランスボードという新しいコントローラを使うらしい(もちろん、僕はこのイベントに参加したわけではなくネットでの見聞によるものである)。
このコントローラは、プレイヤーが上に乗ると、その体重の偏りをリアルタイムに計測してWii本体に無線で送信する仕組みになっているようである。

これは、形状がいかにも体重計のようになっているので、あまり違和感なくその上に乗ることができる(製品化される段階でデザインが変更されるかも知れないが)。
ただ、どうやら右足と左足を置く場所があらかじめ決められてしまっているようだ(E3でのステージデモが最初うまくいかなかったのはバランスボードを逆向きに置いてしまったからではないだろうか)。
向きが決まっているのなら、どう置けばよいのか直感的にわかるような形状になっているのがよいと思う。

あるいは、どう置いても違いがないように設計するのがよいだろう。

つまり、円盤型がよいと思う。
それに、床に置いたらオン、持ち上げたらオフになるようにすればよいので、明示的な電源スイッチなんかいらないだろう。

以前のエントリーATとiPodで書いたけれど、僕のいる研究室で開発している個人用の乗り物ATのコントローラとしてステップホイールというデバイスを作ったことがある(以下の写真を参照)。
これは、直径40cmの円盤で、上に人間(ATの搭乗者)が乗って体を傾け、ATの移動方向と速度を制御するものである。

stepwheel.jpg

同心円上に並べられた8個の圧力センサーの値を常時計測し、最初に乗ったときにユーザーに2~3秒静止してもらってニュートラルポジションを計算し、それとの差分に基づいて体の傾きを検知するのである。
搭乗者は、ステップホイールにどう乗ってもよく、セグウェイのように体を前に向けて乗ったり、スケボーのように体を横に向けて乗ったりできるようになっている。

バランスボードを使ったゲーム(飛んできたサッカーボールをヘディングではね返す)のように、上半身の動きを検出するようには今のところなっていないが、つま先とかかとの圧力バランスや右足と左足の圧力バランス、そして単位時間当たりの圧力の変化量をうまく組み合わせれば何とかできると思う(おそらくバランスボードも似たような仕組みだと思うけれど、ゲーム風景のビデオを見た限りでは非常によくできているみたいである)。
また、Wii FitはBMI (Body Mass Index)と呼ばれる、身長と体重から計算される値(体格指数とも呼ばれる。式は体重(kg)/(身長(m)の2乗))を記録するようになっているので、あらかじめ、身長を登録しているはずだから、その値も考慮して上半身の傾きを計算しているのかも知れない。

ところで、僕は、ステップホイールの上で、片足を軸にしてもう片方の足をすべらせてスライドすると、足を動かした分だけその場回転をするような仕組みも考えていた。
これはiPodのクリックホイールの操作を真似たものだが、バランスボードにも同様の仕組みを取り入れるとよいと思う。

たとえば、この仕組みでメニュー選択ができるようにすればよい。
つまり、メニューモードに移行したら、足をスライドさせて項目を選択、足を浮かせて決定である(決定する場合は、片足を一度浮かせてからつま先をトンとするのでもよいだろう)。
メニュー選択ができれば、Wiiリモコンを一緒に使う必要がなくなり、きめ細かな操作も足でできるようになって、さらに面白くなるだろう。

とりあえずWii Fitが発売されたら即購入して、バランスボードの性能などを試してみたいと思う。

2代目バランスボードを円盤型にしたいとお考えでしたら是非ご連絡ください>任天堂さん。
ちなみに、Wiiリモコンの拡張コントローラを自作する件は何とかなりそうです。
改造したセンサーバーと新型デバイスを使ってリモコンの位置と向きを認識する仕組みが完成したら、このブログでお知らせします。

投稿者 nagao : 22:58 | トラックバック

2007年07月08日

講演会のお知らせ

今週の火曜日に名古屋大学で以下のような講演会が行われます。
講演者は私です。

最近は、講義か学会発表ばかりだったので、一般の人向けの講演はかなり久しぶりです。
できるだけ実例を多く紹介して、専門外の人にもわかりやすい話をしようと思います。
おそらく講演の半分くらいの時間はデモをやっていると思います。
ご興味のある方は、奮ってご参加ください。

************情報処理学会東海支部主催講演会のご案内***********

日  時: 平成19年7月10日(火) 15:00~17:00
場  所: 名古屋大学 IB電子情報館 東棟 大講義室
      地下鉄名城線 「名古屋大学」駅下車 3番出口すぐ
http://www.nagoya-u.ac.jp/camp/map_higashiyama/の[66]の東側)

講演題目:「Webコンテンツの高度利用 -アノテーションとトランスコーディング-」

講  師: 長尾 確(ながお かたし)
      (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授/情報科学研究科 メディア科学専攻 併担)

概  要:
近年、Webコンテンツはますます多様になり、その利用価値も高くなっている。
もはや、Webに載っていないコンテンツは世の中に存在しないものと認識されることも多くなっている。
しかし、相変わらず、意味的な検索は困難であり、要約や翻訳などの精度も不十分である。
さらに、映像コンテンツも大量にネット配信されるようになったが、単純な視聴以外の利用法には特に新しいものがない。
本講演では、Webコンテンツを知的に高度に利用するための仕組みについて解説する。
また、一般公開されている新しい映像コンテンツサービスとしてSynvieを紹介する。
これは、映像コンテンツをこれまで以上に効率よく検索・視聴するための仕組みであり、映像関連のビジネスを考えている人には大いに参考になると思われる。

参  加:参加費無料(参加資格は問いません)
     会場準備のためなるべく事前にお申し込みください。
     お名前、所属、連絡先(お電話、e-mail)を以下申込先に
     EmailまたはFAXでお送りください。

申込先:社団法人 情報処理学会東海支部 事務局
〒460-0003 名古屋市中区錦2-17-21(株)NTTデータ伏見ビル内
TEL:(052) 204-4517 FAX:(052) 204-4783
E-mail: ipsj_tsj@tcp-ip.or.jp

主  催:社団法人 情報処理学会 東海支部

ポスターは、http://www.ipsj.or.jp/sibu/tokai/よりダウンロードできます。

投稿者 nagao : 01:33 | コメント (14) | トラックバック

2007年07月02日

ウィノベーション(Wiinnovation)

表題は、任天堂の最新のゲーム機の名称Wii(ウィー)とInnovation(イノベーション。革新)を合わせた言葉である(そのまんまで恐縮です)。

以前にこのブログで紹介した「超ダートマス会議」の賞品としてWiiを購入したときに、ちょっと興味が湧いたので、研究用にさらに3台購入して、いろいろ試してみた。
実はゲームマシンを購入したのは生まれて初めてのことである(ゲームはPCで十分だと思っていた)。

Wiiリモコンとそのユーザーインタフェースはまったくすばらしい。
民生用のデバイステクノロジーに心が躍らされたのは、最近ではiPod(特にクリックホイール)以来である。
ケータイやカーナビに続いて、世界に誇れる日本の情報技術がまた一つ誕生したのだな、と思う。
これを作ったことで任天堂はさらに大きく飛躍し、作れなかったことでソニーは(この業界で)敗北したのだと思う。

日本の家電メーカーは、Wiiのテクノロジーをベースに今後の製品を考えればよい。
もうアップルなど目じゃない。
たとえば、Apple TVなんて日本じゃ絶対売れないと思う。
それにiPhoneが製品として世に出たことで、僕の好きなiPodには未来がない(より正確には、現在のiPodのビジネスモデルには先がない)こともわかってきたし、ケータイなら日本の技術やサービスの方が優れていると思う(これは、いわゆるケータイではないがAdvanced/W-ZERO3[es]は、iPhoneよりよくできている気がする)。


僕は、家電のIT化は地上デジタル放送対応のハードディスクビデオから本格的に進むと考えていた。
いわゆるホームサーバーの機能とよくマッチするからである。
でも改めて考えてみると、家電のIT化(つまり、ネットワーク化とサービス連携)にはWiiはもってこいのマシンである。

まず、無線LANとBluetooth(さらにUSB)を内蔵しているので、家電間の通信と連携に比較的簡単に対応できる。
また、一般のテレビを表示装置にしているので、ハードディスクビデオと同様に、テレビを操作する感覚でさまざまなアプリケーションを操作できる。
さらに、何と言ってもWiiリモコンが秀逸である。
通常の家電の赤外線リモコンにはできない(その試みはあったかも知れないが)ダイレクトマニピュレーションができる。
これは、PCやPDAのユーザーには特に新しいことではないが、家電の操作においては画期的なことである。
テレビはある程度離れて見るので、タッチパネル方式ではダメなのである。

また、振動や音によるリモコンへのフィードバックもできるので、操作時のナビゲーションはこれまでのリモコンより直感的でわかりやすい。

IT家電のインタフェースデバイスはこれでほぼ決まりだろう。
任天堂が射程に入れられる世界はさらに大きく広がったと思う。


僕はこのWiiリモコンに惚れ込んでしまったので、これを自分たちの研究にも役立てることにした。
そのために、今のWiiリモコンにはできない(当然、これまでの赤外線リモコンにもできない)ことを一つ実現してみようと思う。
それは、リモコンの現在位置(家の中のどこにあるか)を自動的に知ることである。

この問題を解く方法そのものは簡単である。
ユーザーがWiiリモコンでテレビ画面上のどこを指しているかを計算するための仕組みは、テレビの上か下に設置した赤外線LEDを、リモコンの先端に内蔵された可視光フィルタ付きのCMOSイメージセンサー(つまりカメラ)で検知して、相対的な位置関係を計算するというものである。
付属の赤外線LED装置にはセンサーバーという名前がついているが、これ自体はセンサーではないので誤解されやすい名前である(素直にIRバーとでも言えばよいのに)。

このLEDデバイスに、位置に関するIDを埋め込めばよいのである。
僕は、昔(1998年)赤外線LEDで構成されるマーカーにID(このときはマーカーの枠線内の点の数で表現した)を埋め込んで、天井に設置し、それを可視光フィルタ付きCCDカメラで撮影して画像処理し、リアルタイムに室内位置を認識する仕組みを作ったことがある。
以下の写真は、そのときの実験に使った赤外線マーカーである(無論、これらの光は肉眼では見えない)。

IRmarker.jpg

(長尾確ほか「エージェントテクノロジー最前線」共立出版 2000より)

IDだけでなく、あらかじめ登録しておいたマーカーの画像(正面から間近に見た場合のパターン)と、今見えているマーカーの画像の違いから、カメラを持つユーザーの3次元的な位置と方向を同時に認識することができた(位置の精度は誤差30cm程度である)。
以下の写真は、実験していたときの僕の姿である。
腰のあたりにあるノートPCの上の方に、常に天井を見ているカメラが装着されている。
頭には旧型のヘッドアップディスプレイが装着されている(今改めて見ると実にダサい)。

nagao1998.jpg

(長尾確ほか「エージェントテクノロジー最前線」共立出版 2000より)

今回は、WiiリモコンのCMOSセンサーの処理プログラムを変更できそうにないので、LEDの光を変調してIDをエンコードし、IR光センサー(フォトディテクタ)で受信してIDをデコードすることにする。
デコーダのデバイスはWiiリモコンの拡張ポート(ヌンチャクなどと接続する部分)に接続して、本体(この場合はPC)にデータを送信する。
リモコンが向いている先にあるIRバーのIDを受信することで、リモコンの現在位置を知ることができる。
ただし、これはまだ完成していない。
リモコンの拡張ポートを用いた通信は思った以上に複雑だったからだ(リモコンと拡張コントローラが400kbpsのI2C (Inter Integrated Circuit)通信を行っていることはわかったけれど、どうもデータが暗号化されているらしい)。
これがうまくいったら、またこのブログで触れたいと思う。

リモコンの位置がわかるということは、当然、それを使っているユーザーの位置がわかるということである。
複数のユーザーがそれぞれ自分用のリモコンを持ち(Bluetoothデバイスには全世界で固有のIDが付いている)、異なるディスプレイ上で何かを操作している(たとえば、部屋や廊下の壁の一部がディスプレイになっている状態を想像して欲しい)とすると、誰がどこにいてどのディスプレイに向っているのかわかる(いる場所によってBluetoothの接続先を切り替えないといけないのではないかと突っ込まれるかも知れないが、いつのまにか切り替わっているとか、現在より遠距離まで届くようになっていることを予測している。ただし、利用するディスプレイごとに接続先を切り替えるのはナンセンスだと思う)。


ユーザーの文脈(現在位置と時間、および操作履歴など)に依存した(このことをコンテキストアウェアと呼ぶ)サービスが可能になれば、家電の利用法はさらに簡単でわかりやすいものになるだろう。
Wiiリモコンおよび関連ソフトウェアのもたらしたインパクトはとても大きく、情報家電サービスが本格的に実現されるだろう。


ところで、これからシステムやサービスを設計するときは、ユーザーを積極的に巻き込める仕組みにしたほうがよい。
これは、製品化前のモニター調査みたいなものではなく、製品化後にシステムやサービスに付加価値をもたらす活動にユーザーが自発的に参加できるようにするものである。
「第三の波」(中央公論新社 1982)という本の中で、著者のアルビン・トフラーは、このことを、生産(プロダクション)と消費(コンサンプション)を合わせた言葉であるプロサンプションと名付けている。


これに関連して、最近読んだ本にこんなことが書いてあった。
ちょっと長いけれど、とても興味深かったので引用する。

プロシューマー・コミュニティを活用する

プロサンプションは、実業界が見たこともないほどパワフルな変化と革新のエンジンになりつつある。
顧客との協創は、ユニークな能力をもつ史上最大の知的資本プール(すぐれた製品やサービスを作るという点について、誰にも負けない熱意をもつ才能の宝庫)を活用することに等しい。
その代わり、やり方のルールはまったく異なるし、既存ビジネスモデルが難しい課題に直面することにもなる。
そんなことはないと思っている人は、すぐそこに迫ったプロシューマー革命の意義や影響を十分に理解できていないのだ。

単なるカスタマイズではない

プロサンプションは、顧客擁護の仮面をかぶったマーケティング手法ではないし、製品の単なるカスタマイズでもない。
カスタマイズとは、既製品を自分に合わせてもらうことをいう。
マスカスタマイゼーションが悪いと言っているわけではない。
顧客は自分の使い方に合った製品が手に入るのだし、企業側は大量生産による規模の経済が活用できるのだから。
問題は、マスカスタマイゼーションでは、あらかじめ決められた部品しか選べないことが多く、ユーザーにとって柔軟性と革新が大きく制限されてしまうことだ。
たとえばデルのコンピュータでは、好みのDVDドライブを選ぶことができるが、何を選んでもDVDドライブでしかない。
本当のプロサンプションとは、もっと早い段階の設計プロセスにまで深く関与するものであり(レゴの次世代型マインドストームなどがその例)、また、ユーザーがハッキングやリミックスをたやすく行える製品を意味する(マッシュアップ)。

管理統制は不能

企業が許そうが許すまいが、ユーザーは、自社の製品をユーザー自身の革新のプラットフォームとして使うようになる。
iPodやPSPの例を見ればわかるように、コラボレーションと情報共有によって付加価値を生む方法を開発するのだ。
そのうち、価値は自社の製品やサービスからユーザーが情報を使って何をするかに移っていく。
そのとき、ユーザーと共にいなければ、ユーザーは自社を飛び越える方法を開発し、競合他社にチャンスを与えてしまう。
つまり、すべてを失い、プロシューマー寄りの競合他社にとられるよりは、管理体制を部分的に手放したほうがましという事態にならざるをえないのだ。

ツールキットと環境整備

固定的で変化しない製品など、今後は無意味である。
いずれにせよユーザーは製品をプラットフォームとして使う。
それなら、先回りするほうがいい。
製品をモジュール構造にする。
再構成を可能にする。
編集可能にする。
顧客による革新とコラボレーションができる状況を作る。
場を提供する。
ユーザーフレンドリーなツールキットを用意する。
製品に付加価値をつける原材料を提供する。
リミックスや共有をしやすくする。
我々は、これをプロサンプション対応設計と呼ぶ。

参加してピアとなる

プロサンプションの世界を経験すると、本当のビジネスは、最終製品を作ることではなく革新のエコシステムを作ることにあるとわかるはずだ。
そうであれば、IBMがオープンソースに参加したように、このエコシステムに参加すればいい。
IBMはリナックスから価値を収穫したが、リナックスエコシステムを傘下においたわけでもなければ、管理統制したわけでもない。
セカンドライフも環境を用意しただけで、価値の創造は99%をユーザーが行った。
プロサンプションが成熟したら、ユーザーを顧客としてではなく、ピアとして扱うことになるはずだ。

成果を共有する

自分たちが生みだしたものに対し、その所有権と成果の一部は自分がもつべきだとユーザーは考える。
参加がユーザーにとっても利益となる仕組みができれば、豊かでダイナミックなエコシステムによって成長と革新を続けることができる。
共産主義だなどと考えないこと。
イーベイのミクロ経済を思いだそう。
イーベイは手数料を取っているが、同時に、数十万人がイーベイで生計を立てている。
セカンドライフのユーザーはゲームコンテンツのほとんどを作っているのだから、その知的所有権は自分がもつべきものであり、ゲーム内で資産を売れば現金を得ることもできると考えるのが当然だろう。
ユーザーとの協創を加速し、セカンドライフの仮想経済を成長させ、ユーザーが現金収入を得られる環境を整えているのは知的所有権である。
自社の製品やサービスでは、このような付加価値の創造が不可能だという理由はあるだろうか。

(ドン・タプスコットほか「ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ」日経BP社 2007 236-239ページより)

Wiiリモコンはきっとこれからのユーザーインタフェースデバイスの主流になるだろう。
僕たちは、それに新たな機能と新たな価値を付加するために努力している。

だから、僕らのような外部の人間にもプロサンプションに参加させて欲しい。
もし可能でしたら、Wiiリモコンと拡張コントローラの通信の暗号化のルールを教えてください>任天堂さん。
お礼に画期的なサービスのアイディアをご提供しますよ。

投稿者 nagao : 23:10 | コメント (214) | トラックバック