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2008年07月22日

完全にプライベートなモバイルディスプレイ

つい先日、網膜走査ディスプレイ(Retinal Imaging Display. 以下RID)を企画・開発したブラザー工業の人たちが僕のいる研究室に来て、このディスプレイをデモしてくれた。
RIDは、ヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display.いわゆるVR向けのHead-Mounted Display(HMD)とは異なる)の一種で、目の近くに装着した小型デバイス(本体とは光ケーブルで接続されている)から、目に入れても安全な明るさの光を網膜に当て、その光を高速に動かすことによる残像効果を利用して、網膜に映像を直接投影するものである。

このディスプレイの最大の特徴は、装着者以外の人間には絶対に見えないことである(網膜に直接投影するのだから当然だが)。

ノートPCならともかくケータイの小さい液晶にも偏光フィルタを貼って、隣にいる人に見られないようにする人もいるくらいだから、自分にしか見えないディスプレイというのは結構需要があるのではないだろうか。

RIDに(将来的に)実用性があるかどうかを考えていたのだけど、やはり、この完全にプライベートである点を最大限に活かすべきだと思う。
僕は新幹線などでの移動中に、新聞紙を広げたくらいの大画面で作業したいと思うことが多いのだけど、メールにせよドキュメントにせよプログラムにせよ、他の人にはあまり見られたくないのである。
だから、このディスプレイがあれば少なくとも移動中は重宝するだろうと思う。

さて、このディスプレイはまだモバイル化(あるいは無線化)されていない(グリーンレーザーの関係でまだ本体を小さくできないらしい)のであるが、それにも増して重要なのは、無論、モバイルなユーザーインタフェースである。

僕は、ブラザーの人たちに対して、簡単なAR(拡張現実感)システムのデモをした。
これは、壁に設置した赤外線カメラを使って、壁に対する顔の向きや壁から頭への距離を計算して、それに応じた表示をするというものである。
また、同時に、赤外線IDによるユーザーの識別も行う。
理想的には、RIDのようなヘッドアップディスプレイを使うのがよいのだが、このときは、大型液晶ディスプレイを使ってデモをした。
壁に見立てた複数の大型ディスプレイの方に人間が近づいていくと、その人に応じたコンテンツ(デモでは、ヘッドラインニュース、地図、カレンダー)が表示され、距離に応じて詳細度を変化させる。
ニュースの場合は、離れているときはティッカーとしてタイトルが流れて表示され、少し近づくとタイトル一覧が表示され、タイトルを選択できるようになる。
さらに近付くと直前に選んだタイトルの記事が詳しく表示される。
カレンダーの場合は、距離に応じて、月、週、日(1日のタイムテーブル)という具合に情報の粒度が変化する。
地図の場合は、グローバルからローカルへの距離に応じたズーミングである。
これらは単純な例だが、実装も簡単なので、状況を限定すれば十分に実用化できると思う。
本当は、紙のポスターやカレンダーや地図(つまり、ディスプレイを装着しなくても肉眼で普通に見えるもの)に情報をオーバーレイするという見せ方にしたかったのだが、これは透過型ディスプレイじゃないとうまく実現できないので今回はあきらめた(カメラで撮影した映像に情報をオーバーレイする、ビデオシースルーと呼ばれる手法もあるが、それではちょっと見劣りする)。

ちなみに、スクロールとメニュー選択などのために、Wiiのヌンチャクをマイコン経由でモバイルPCにつないで使用した(僕はモバイルシステムの片手入力装置としてヌンチャクはなかなかよいと思っている)。

ところで、僕は、昔、島津製作所のデータグラスというヘッドアップディスプレイを使った実験をしていて、これはとても使用に堪えないと思って、研究をやめたことがある。
いわゆるメガネ型ディスプレイには将来性がないと判断したのである。
もちろん、当時のデバイスの使い勝手が悪すぎたせいもあるが、頭部に装着する透過型ディスプレイのメリットとデメリットのバランスがうまく取れそうにないと思ったからである(重い、屋外ではよく見えない、そもそも文字が読みにくい、隣の人に覗かれると何を見ているか多少なり知られてしまう、などがその主な理由であった)。
しかし、移動中に限定して(自宅やオフィスにいるときはわざわざそんなものは付けないだろう)、大画面をプライベートに見れ、しかも文字が十分に読みやすい、ということならば、是非使ってみたいと思う。

また、モバイル向けの入力装置についてだけど、前述のヌンチャクでもよいが、最近かなりの盛り上がりを見せているiPhoneのようなタッチパネルデバイスでよいと思う。
僕は、表示装置に指で触って指紋がベタベタ付くのが大嫌いなのだけど、触るのが表示装置でなければ別に腹は立たない(この件でアップルの人は「指紋が付いたら拭けばいい」と言ったらしいけど、触れる頻度と見る頻度を考えたらそんなめんどくさいことはやっていられないと思う)。
たとえば、iPodのクリックホイールに透明シートを貼ったとして、それに指紋が付くと言って怒る人はいないと思う。

タッチパネル液晶デバイスを純粋に(キーボードにもトラックパッドにもクリックホイールにもなる)レイアウトフリーの入力デバイスと考えれば、(特に珍しくはないけれど)僕にとってはかなり安心して使えるだろう(フリックとかピンチイン・アウトなんていう指操作には、僕はたいして興味がない)。

ディスプレイを頭に装着できないときは、一時的にタッチパネルをディスプレイとして利用するのはよいと思う(たとえば、メモや写真をすぐに確認したいときなど)。

文字入力に関しては、iPhoneはいろいろ文句を言われているし、そもそもメールや文書を書いたりするのにあまり向いていないのだと思うけれど、あれを単にソフトキーボード+トラックパッドだと思って使えば割とよいのではないかと思う。
指に対して、ほんの少しフィードバック(表面の微振動による触覚フォースフィードバック)を返してやれば結構ブラインドで文字入力できるようになるのではないだろうか。

さらに欲を言えば、デバイスを縦の中心線で2つに分離して、再結合して細長い形状にして(ハサミのように左右に180度開くのでもいい)、タッチパネルに両手を置いて使えるともっとよい(ただし、座っている時のみ)。
そうすればマルチタッチの特徴が最大限に発揮されるだろう。

アップルはソリッドで可動部のないものがシンプルでよいと思っているみたいだから期待できないけれど、日本人はトランスフォームするガジェットが好きだから、ウィルコムあたりが作ってくれないだろうか(そうしたら僕は絶対に買いますし、周囲の人にも全力で薦めます。ちなみに、WILLCOM D4はちょっとでかすぎると思います)。

無論、ブラザーのRIDのような装着型プライベートディスプレイがタッチパネルデバイスにワイヤレスで接続できることが前提だけど。

昔あきらめたテーマをもう一度考察する機会を与えてくれて、さらにモバイルシステムの新しい未来を感じさせてくれたブラザー工業のみなさんに感謝したいと思います。

投稿者 nagao : 23:54 | トラックバック

2008年07月16日

セマンティックトランスコーディング再び

大変ご無沙汰しています。
Synvieの新しいビデオシーン引用の機能を使って、大学での講義の内容の一部をご紹介します。
新しいシーン引用は、ブログ内でビデオシーンを視聴することができます(ビデオ画面にマウスカーソルを置いてクリックしてください)。
2画面が横に並んでいるものは、2つのビデオのシーンを共引用したもので、同期的に再生することができます(ビデオ画面右下の「同期再生」ボタンをクリックしてください)。
講義内で語られている内容は、僕が10年くらい前から研究を行っているセマンティックトランスコーディングというWebコンテンツ技術に関するものです。

これから、セマンティックトランスコーディングについて講義で説明したビデオの一部をご紹介します。

まず、コンテンツをより高度に利用できるようにするためのアノテーションと呼ばれる仕組みについて説明しています。
アノテーションとは、メタコンテンツ(コンテンツに関するコンテンツ)の一種であり、機械がコンテンツの意味を処理するためのヒントとなる(主に人間が入力する)情報のことです。



アノテーションは次に説明するトランスコーディングにおいて重要な役割を果たします。

トランスコーディングとは、ネット上でコンテンツを柔軟に変換するための技術です。



アノテーションを用いてコンテンツの意味を考慮して行うトランスコーディング(コンテンツ変換)のことをセマンティックトランスコーディングと呼んでいます。

セマンティックトランスコーディングの例として、テキストコンテンツの要約、翻訳、音声化のデモを行っています。



テキストコンテンツのトランスコーディングには、言語的アノテーションという仕組みが重要です。
これについては、いつか詳しくご説明します。

次に、Webページ内に含まれる専門用語をよりわかりやすい表現に言い換える仕組みをデモしています。
これもテキストコンテンツのトランスコーディングの一例です。



この仕組みはクリックパラフレーズと呼ばれていて、よくわからない言葉を画面上でクリックすると辞書による定義文を文脈に合うように変形して、クリックした言葉に置き換えるという処理を行います。
言い換えられた表現の中にもわからない言葉が含まれている場合は、さらにクリックして言い換えてもらうことができます(これを続けていくと文が長くなってとても冗長な表現になってしまいますが)。

最後に、アノテーションとトランスコーディングによって近い将来にどのようなことが可能になるかについて話しています。



この技術は、コンテンツを個人化(個人に適合させること)できるだけでなく、コンテンツを資産として運用できるようにしたり、情報の国際化やバリアフリー化に貢献するだろうと思われます。

投稿者 nagao : 02:26 | トラックバック