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2009年03月18日

知能メカトロニクスへの接近

前回のエントリーで触れた情報処理学会全国大会で、パートナーロボット(日常生活において人間の支援をするロボット)に関する特別セッションが行われ、その中でメカエレキソフトという奇妙なキーワードが使われていた。
また、機械工学の分野では「ITとRTの融合」というスローガンが掲げられていて、今月の24日に神戸大学でシンポジウムが行われるらしい。
ここで、RTとはRobotic Technologyつまりロボット技術のことである。

要するに、情報系の研究者も機械系の研究者も共に、情報技術(特に、人工知能)と電子制御機械技術(主に、ロボット)を統合的に発展させる必要があると考えている、ということだろう。

これには僕もまったく同感である。
ただ、僕が期待しているのは、ロボティクスではなくメカトロニクス一般である。

メカトロニクスとはメカニクスとエレクトロニクスの合成語である。
つまり、機械系と電子系を統合するシステム(つまり、電子制御の機械)のことである。
これは、現在、実際に世の中で稼働している機械のほとんどを指している。

そして、知能メカトロニクスは、電子制御の機械を知能化する(情報技術によってより知的にする)技術である。
物理的な機械を知能化する典型的な例は、ヒューマノイドに代表される知能ロボットであるが、単純に、知能メカトロニクス=知能ロボティクスだと認識されると、視野を狭くする恐れがある。
たとえば、自動ドアやエアコンの風を人のいるところに向けるシステムをロボットだと認識する人は少ないと思うが、これらは情報技術と電子制御機械技術が統合されて初めて実現する(あるいは実現が容易になる)ものである。
さらに、自動ドアとエアコンを連動させると、それぞれをより高度にすることができる。

機械の知能化は、当然ながら実世界のセンシング(知覚)の高度化とネットワーク化を含むので、複数の機械が実世界の認識と通信機能を持つことで初めて可能になるアプリケーションが考えられる。
知能メカトロニクスの典型例は、分散化されたセンサーシステムにアクチュエータ(駆動系。アームロボットのような複雑なものでも、車輪のような単純なものでもよい)を統合したものである。

人工知能の目標を、高度に自律的な知能(および身体)の実現とすることはわかりやすいけれど、僕が考える人工知能のより重要な目標は、人間そのものを強化(あるいは進化)させる効果的な手段を実現することである。
そのためには、人間をシステムの中心に置き、人間を取り囲む環境をより知的で高度にすることを考えるべきだろう。

僕が考える知能メカトロニクスとは、ユーザーを中心とした、物理的・情報的環境を拡張・強化あるいは知能化するための技術およびその研究領域である。

そして、このブログでは何度も取り上げているが、知能メカトロニクスを具体化するために、僕たちは、ネットワーク化された個人用の知的な乗り物を研究開発している。

移動体を知能化すること自体は、かなり以前から行われており、実用化も進められている。
たとえば、自動車向けに開発されているプリクラッシュセーフティシステムである。
これは、道路走行中に前方の車両に衝突しないように自動的にブレーキをかけたり、衝突時の人間にかかる衝撃を弱められるように自動的にシート(主にヘッドレスト)を調節するものである。
このようなシステムの延長線上に、すべての移動体を自動走行させてネットワークで情報を管理し、事故を未然に防ぐシステムが考えられる。

ネットワーク化され情報共有が可能な乗り物を、個人の行動支援のレベルまでブレイクダウンして、人間の身体と知能を拡張するシステムとして乗り物を再考したのが、僕たちの研究している個人用知的移動体(ATと呼ばれている)である。
ATは、現在まで、目的地への自動走行、人間を含む障害物回避、対象物の認識とそれへの誘導、人間の自動追尾、複数台の連携走行と衝突回避、などを可能にしてきた。
もちろん、環境側にもいくつかの仕掛けが必要であるが、ATが今できることが何なのかだいぶわかってきた。
やはり、ソフトウェアだけでなくメカやデバイスを一緒に考えると、発想がかなり広がっていくことを実感できた。
しかし、人間の感覚・思考や運動の柔軟さにはまだまだ遠く及ばないので、人間の知能と身体の拡張のためには多くの研究が必要だろう。
とても面白いテーマだし、メカやデバイスに詳しくなくても手探りで何とかやっていける研究なので、できれば多くの人に興味を持ってもらいたいと思っている。


ところで、最近、つくづく日本人の発想力はすごいなあと思ったのは、「ライドバック」というアニメを偶然見たときである(どうやら、これは名古屋では放映されていないらしい)。
これは、バイクを搭乗型ロボットに進化させた乗り物(その名前がライドバック)が主要な舞台装置となっている物語である。

ライドバックには2本の腕が付いていて、2個の車輪を支えるフレームが足のように動かせるようになっている。
そのため、何かをつかんだり、ジャンプしたりできる。
バイクがロボットに変形するシステムは、かなり以前からアニメや特撮番組の世界ではいろいろあったけれど、ロボットに変形するのではなく初めからそういう乗り物(ただし、フレームが可変なので形態は変化する)にして、日常生活にほぼ定着している設定にしたところがとても面白い(ちなみに、劇中の年代は2020年だそうである)。

実は、僕もATに腕をつけたり、ジャンプできるようにサスペンションを工夫することをずっと考えていた。
さすがにライドバックのような乗り物は兵器としても使える(劇中では画期的な戦術兵器として扱われている)ため、実際に開発すべきだとは思わないけれど、乗り物が搭乗者をさまざまな危険から守るために、何かにつかまったり飛び上がったりする仕組みを持つのはとても有効だと思う。


そんなわけで、僕が最近ずっと考えている、人工知能研究の新しいステップとしての知能メカトロニクスについて、ATに関する研究活動を例に挙げて、詳しくお話しようと思っています(ただし、ライドバックについては触れません)。
ご興味のある方は、以下の研究会に奮ってご参加ください。

情報処理学会 第155回知能と複雑系研究会

2009年3月20日-21日
会場:公立はこだて未来大学 593教室
会場へのアクセスは
http://www.fun.ac.jp/acces/index.html
を参照してください。

テーマ「人工知能がこれから目指すべきもの」

3月20日
10:00 - 11:00
中島秀之(公立はこだて未来大学)
知能への進化論的アプローチ
11:00 - 12:00
片桐恭弘(公立はこだて未来大学)
文化の計算理論を求めて

14:00 - 15:00
小野哲雄(公立はこだて未来大学)
HAIによる環境知能の実現へ向けて
15:00 - 16:00
橋田浩一(産業技術総合研究所)
知識循環と持続可能なサービスの設計

3月21日
10:00 - 11:00
大沢英一(公立はこだて未来大学)
複雑ネットワークからの構造情報抽出
11:00 - 12:00
長尾 確(名古屋大学)
知能メカトロニクスへの接近 - 個人用知的移動体を例にして -

14:00 - 16:00
パネルディスカッション(パネリストは講演者全員)

これらの講演やディスカッションはビデオ撮影をして、後日ネットで公開する予定です。
そのときは、このブログでもご紹介します。

投稿者 nagao : 2009年03月18日 00:50

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